単に材料と色と形とが、自由に選り好みすることを許されているといふまでである

1章7節361-5

「選り好み」とは、すでに注釈した「好み」(1章3節)と、深く関連することばである。そこに「選ぶ」という要素が付け加えられることで、市場の仕組みのなかで「選択する」というふるまいがいっそう強調され、市場を通して流通する衣服に対する批判が含意されている。

ここでは、仕事着について触れ、洋装が入り変化が著しいように見えるものの、高温多湿の気候のなかで労働するための衣服としての改良が十分にほどこされてこなかったことを問い質している。「材料と色と形」のみが選択の幅を生み出しているだけで、仕事着として「まだ完成していない」という。それは、洋服を含めて、市場を通してもたらされる衣服は、利用者の生活が必要とする要素を十分に満たしていないという批判でもあった。

そしてこのフレーズは、第1章第8節の最終パラグラフの「我々の衣服が次々に其素材を増加し、色や形の好みは目まぐろしく移つて行きながら、必ずしも丸々前のものを滅ぼしてもしまわず」にいることを指摘し、「真に自由なる選択」をしうる可能性を問う部分(363-16~20)と呼応している。[重信]

別に第二のそれよりも珍しく、また上品なるもの好み新旧雑処して残つて居たといふこと真に自由なる選択