以前の渋いといふ味ひを懐かしく思ふ

1章3節347-16~17

社会/文化変化へのリアクションとして、過去への憧憬が発生するという議論は、日本の民俗学においては1980年代から90年代にかけてドイツ語圏民俗学のフォークロリスムス(フォークロリズム)という概念が紹介されてから、特に2000年代以降に関心を集めるようになった。とくに過去への憧憬に呼応して提供される表面的な昔風の演出をめぐる議論が蓄積されている。こうした現象の背景としては、急速な文化の変化や社会変動をその渦中で体験している人びとが抱く、現在への不安なり不満との関連が指摘されている(法橋量「記憶とフォークロリスムス」『記憶―現代民俗誌の地平3』朝倉書店、2003年。岩本通弥「都市憧憬とフォークロリズム」『都市とふるさと―都市の暮らしの民俗学1』吉川弘文館、2006年)。ここでの柳田國男の見解も以上の議論と響きあうものである。

なお、ヴァルター・ベンヤミンのいう「アウラ」もまた、『世相篇』と同じ1930年代の評論において提起された概念であることも想起すべきであろう。「アウラ」は複製技術時代の到来という近代化に伴い、失われたものとして発見されている(ヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術』、佐々木基一編集解説、晶文社、1999年)[及川]

昂奮渋さの極致